こんな【緊急放流】の誤解を解いていきます。
緊急放流の仕組みについて知りたい方は別記事をご覧ください。
また、緊急放流について正しく、そしてリアルな仕事内容についても知っていただけたらと思いこの記事を書きました。
この記事を書いている人
- 元地方公務員(土木職)の土木ブロガー💻
- 1級土木施工管理技士の資格もち
- 県庁の公務員土木職で異動は3回経験し7年間はたらきました。
- 経験した仕事内容は、整備(道路、河川、砂防)、水道、ダムの工事や維持管理の仕事です。
- 現在は、土木施工管理技士の勉強方法や公務員のあれこれ、仕事などをメインにブログでさまざまな情報発信をしています。
それではさっそく参りましょう、ラインナップはこちらです。
ダムにおける緊急放流の誤解について
緊急放流とは、異常な大雨や台風などでダムが貯められる容量を超えてしまうとき、流入量に対して同じ量を放流することです。
ダムが限界を超えてしまう!というサインです。
ちなみに、緊急放流とは、正式には【異常洪水時防災操作】といいます。
そして緊急放流についてよく誤解されやすいのは、
緊急放流のよくある誤解
「大雨が降ると分かっているのに、ダムに水を貯めておくのが悪い(ダムを空っぽにしなかった)」=「ダム管理者の怠慢」
と考えられてしまうことです。
しかしそうではないんです。
そもそもダムは空っぽにはできません。
それはダムには治水と利水という役割があるからです。
極力、ダムの水位は低く下げて大雨や台風に備えますが、ここ最近の異常気象は、ダムのキャパを上回るものが増えています。
だからダム管理者が何もしておらず、
ダムを守るためにダムから放流をしているわけではありません。
雨量を予測することは非常にむずかしいんです。(というかできない)
その試行錯誤の上、それでも雨が降りつづけて流入量が増えつづければ、泣く泣く緊急放流をしなければいけないという状況です。
逆に緊急放流をしなければ、ダムとしての機能を完全に失い、比較にならないくらいおそろしい災害が起きてしまう可能性があります。
ダムが機能を失うということは、
- ダムが決壊し、ダムに溜めていた水がすべて下流へ流れ込む
- ダムの上からこぼれてしまうことにより把握しきれない量の水が下流へ流れ込む
という2パターンが考えられます。
主な仕事内容~緊急放流の誤解を解く~
つづいて【緊急放流】時の仕事内容についてです。
ダム職員は待機班を組んでおり、24時間いつでも対応できるような体制をとっています。
緊急放流をするようなときは、大規模な災害が起こりうる非常事態ですので、何時間も前から放流の準備や操作をしています。
通知
緊急放流になる可能性があるときは、下流のみなさんにすみやかに避難してもらえるように、1時間~3時間前にお知らせの通知を市や町、ラジオ局やテレビに情報を流します。
特に令和元年の台風19号の時は、テレビで「○○ダムで緊急放流をする」というニュースをよく耳にしたかもしれません。
ここでみなさんにお伝えしたいのは、
「ダムへ入ってくる水の量はだれも分からない、予測不可能である」ということです。
自然との戦いに明確な正解はありません。
その中でも、ダム職員は下流を守るため、緊急放流をするかしないかを判断しなければなりません。
たとえば、「○○時に緊急放流をします」という判断をして、その後雨がやみ、緊急放流を回避することができたとします。
その時に、「結局、緊急放流はしなかったじゃないか!」、「ダム管理者の判断がまちがっていた!」と言う人がいます。
だれも予測できない、自然との戦いでつねに安全側に考えなければならないのです。
逆に、通知をせずに緊急放流をすることは100%ありません。
そこで、緊急放流をするという判断がまちがいであった(緊急放流をせずに済んだ)ことは、むしろよろこばしいことなのです。
ダム管理者の間では、このようなことを「空振り」と言ったりします。
たしかに、一般の人たちからすれば、避難しただけだった…と思うかもしれませんが、それでいいんです。
何かあってからではおそいですから。
つねに、みなさんの命を守ることを最優先にしています。
緊急放流すると言ってしなかった(せずに済んだ)としても、どうかダム管理者を責めないであげてください。
ダム操作
ダムによって、大きさや種類があるので一概には言えませんが、
ゲートダム:ゲートを操作することで放流量を調整するダム
ゲートレスダム:穴あきダムとも呼ばれ、自然調整するダム
の2種類に分かれます。
ダム管理職員が操作しているのは、主にゲートダムと呼ばれているダムで、規則によって放流量が決められています。
ゲートレスダムにも放流を調整できるバルブがあったりしますが、基本、操作はせずに自然に流れる量を放流量としています。(こぼれるとも表現します)
ダム管理職員は、ダムを操作するためダム管理所に向かい、24時間体制で放流量を調整しているのです。
昼夜関係ありませんので、丸1日寝ずにということも…。
ダムコンピュータと呼ばれるダムの基本情報記録データから、雨量や流入量の監視及び放流量の調整をしつづけます。
雨がやみ流入量が落ち着いて、下流への安全が確保できたと確認できれば任務は終了です。
大雨が3日つづけば、3日間は出ずっぱりということですね。
もちろん仮眠は取りますが、どこの自治体も人手不足に悩まされ、ダムを操作できる人は非常に少ないのが現状です。
精神的にも本当にぎりぎりの状態で、待機が終わったあとは死んだように寝ます…。
ダム操作の緊張やストレスは相当なものであると、わたし自身ダム操作をして身に染みて感じました。
少数精鋭で災害と戦っている全国のダム管理職員のみなさん、本当~にお疲れさまです!
警報パトロール
ダムから放流をする際には川が増水するので、川に人がいないか確かめるために河川のパトロールを行います。
川沿いに住んでいる方なら、サイレンやスピーカー音を聞いたことがあるかもしれませんね!
川沿いには、一定の距離で警報局(小さい小屋)があり、そこからサイレンやスピーカーの音で周辺に危険を知らせします。
このパトロールはもちろん昼夜問わず実施されますので、特に夜なんかは、河川敷が暗くてよく見えない場合もありこわいです。
また、大きいダムだと、影響のある下流までは30km以上あることも!
ひとつひとつ警報局をみて確認するため、以前、私が警報パトロールをしたダムは、往復で3時間半以上かかりました。
私たちダム管理職員は、危険な河川の状況を命がけで確認しています。
河川近くのみなさんは、サイレンの音が聞こえたら絶対に河川には近づかないでください。
大雨が降ると河川を見に来る方がいらっしゃいますが、本当にやめてくださいね!
現場の危機的状況~ダム緊急放流時の誤解を解く~
緊急放流時は、非常に大きな災害になる可能性があるため、現場はバタバタと忙しいです。
病院での緊急手術みたいなもんですよ。
鬼気迫る感じです。
関係機関への連絡や放流操作、警報パトロールなどの業務を必死にこなしています。
いつ何が起こるか分からない状態で、体はずっと緊張状態です。
私も昼間の通常業務をおえて、そのまま待機になって朝までの24時間、通知やパトロール、放流量の監視をつづけていました。
過度なストレスで逆に眠れませんでしたね。(笑)
24時間体制の外注委託もできれば良いのですが、なんせ地方自治体なので国のようにお金もありません。
県庁の土木職員をメインに、足りない人手は事務職(行政)の方々にも待機をお願いしています。
ダムは特殊なので、普通の土木職員の異常気象待機とはまた別の待機となります。
1分1秒を争うスピード感で、色んなことを判断しなければなりません。
現場の緊張感はすさまじい…
こんなに神経すりへらしてがんばっているのに、
「緊急放流はダム管理職員の怠慢」
だなんて言われたら本当に悲しいです。(じっさいに言われたことがあります)
ダム緊急放流時の行動!下流の皆さんに伝えたいこと
ダム管理職員として伝えたいことは、
【川には近づかず、避難してください】ということです。
サイレンが聞こえていても、大丈夫だろうと避難をしない人がまだまだたくさんいます。
しかし、私たちダム管理職員は、通知はサイレンを使ってみなさんに危険を伝えることしかできないのです!
避難するかどうかはあなたの判断。
でも私たちは、みなさんの命を守りたいと使命感をもってダム操作をしています。
だから市や町からの避難指示には、どうか従って避難してください。
お願いします。orz
いかがでしたか?
すこしでも【緊急放流】の誤解が解ければ幸いです。
そしてこの気持ちが少しでもみなさんに届いて、災害時にまよわず避難する人がひとりでも増えたらと願っています。
ちなみに事前放流はまた別の話なので、別記事でご確認ください。
以上です。
ありがとうございました。