建物の基礎工事や側溝工事など、掘削を伴う現場で欠かせないのが「土留め工法」です。
その中でも、コストを抑えながら安全に土砂の崩壊を防げる方法として広く使われているのが 親杭横矢板工法(おやぐいよこやいたこうほう) 。
親杭と横矢板を組み合わせたシンプルな構造で、狭い現場でも施工しやすいのが大きな特徴です。
この記事では、親杭横矢板工法の読み方から基本構造、施工手順、そしてメリット・デメリットまでを、図解イメージを交えながらわかりやすく解説します。
ポイント
親杭横矢板工法とは?
親杭横矢板工法とは?読み方と基本構造
親杭横矢板工法の読み方や基本構造を解説していきます。
親杭横矢板工法の読み方
親杭横矢板工法の読み方は、【おやぐい よこやいた こうほう】です。
土木・建設現場で一般的に使われる土留め工法のひとつで、使用する材料は次の通り。
- 「親杭(おやぐい)」=H形鋼などの縦杭
- 「横矢板(よこやいた)」=親杭の間に差し込む板材(木矢板・鋼矢板など)
親杭横矢板工法の仕組み(山留め工法の一種)
親杭横矢板工法は、地面にH形鋼などの親杭を一定間隔で打ち込み、その間に横矢板を挿入して土を支える構造です。
掘削に合わせて横矢板を追加していく「切ばり式の土留め工法」で、基本構造は以下の通りです。
ポイント
- 親杭(H鋼):縦方向に設置され、土圧を受ける主要部材
- 横矢板(木・鋼):親杭のフランジに差し込み、土砂の崩壊を防ぐ
- 切梁(きりばり)・腹起し:必要に応じて内側から支える補強材
- 特徴:
- シンプルな構造
- 施工性が高い
- 止水性は低い(隙間があるため)
親杭横矢板工法が使われる現場
親杭横矢板工法は、以下のような浅い掘削・地下水位が低い現場でよく採用されます。
親杭横矢板工法
- 建物の基礎工事(浅い掘削)
- 道路工事の側溝・管渠の掘削
- 狭小地での小規模掘削
- 都市部の低振動・低騒音が求められる現場
- 仮設的な土留めが必要な場所
- 地下水位が低い地盤
一方、親杭横矢板工法が不向きな現場といえば、地下水が多い場所(止水性が低いため)や、深い掘削が必要な現場(剛性不足)となります。
親杭横矢板工法の構造を図解で解説
親杭横矢板工法の構造について解説していきます。
親杭(H形鋼)の役割
親杭横矢板工法では、まず地中に縦方向へ打ち込まれる「親杭(H形鋼)」が、構造全体を支える柱として重要な役割を果たします。
親杭は土圧を受け止める骨格となり、横矢板を差し込むためのレールのような機能も担っています。
また、必要に応じて切梁や腹起しといった補強材を取り付ける基準材にもなるため、この工法の安定性を左右する中心的な部材といえます。
横矢板の役割
親杭の間には「横矢板」が挿入され、掘削面の土砂が崩れ落ちるのを防ぐ壁として働きます。
横矢板は木材や鋼材などで作られ、掘削の進行に合わせて上から順に差し込まれていきます。
これにより、地盤のゆるみや土砂流出を抑えながら安全に掘削を進めることができます。
横矢板は親杭が作る枠の中にスライドして収まるため、現場状況に応じて柔軟に対応できる点も特徴です。
親杭横矢板工法の施工手順
横矢板工法の施工手順はこちらです。
ポイント
- 親杭の位置を墨出しし、H形鋼などの親杭を所定の深さまで建て込む。
- 地表から段階的に掘削を進め、掘れた分だけ横矢板を親杭の間に差し込む。
- 掘削が深くなり土圧が増す場合は、腹起しや切梁を設置して山留めを補強する。
- 所定の深さまで掘削したら、基礎工事や管渠工事など目的の施工を行う。
- 施工完了後、埋め戻しながら切梁・腹起し・横矢板・親杭の順に撤去する。
施工手順① 親杭(H形鋼)の打設
親杭横矢板工法は、まず施工位置を正確に決めるところから始まります。
設計図に基づいて親杭を打ち込む位置をマーキングし、地盤の状況に応じてH形鋼などの親杭を所定の深さまで建て込んでいきます。
親杭は土留め全体の骨格となるため、垂直性や位置精度が非常に重要です。
施工手順② 掘削しながら横矢板を設置
親杭の建て込みが完了すると、いよいよ掘削作業に移ります。
掘削は一気に深く掘るのではなく、地表から少しずつ段階的に進めていきます。
掘削が進むと親杭の間に空間が生まれるため、その都度、上部から横矢板を差し込んでいきます。
横矢板は親杭のフランジに沿ってスライドしながら収まり、掘削面の土砂が崩れ落ちるのを防ぐ壁として機能します。
施工手順③ 腹起し・切梁の設置
掘削がさらに深くなると、土圧が増して親杭や横矢板だけでは支えきれなくなる場合があります。
その際には、腹起しや切梁といった補強材を内部に設置し、山留め全体の剛性を高めます。
これにより、掘削中の変形を抑え、安全に作業を進めることができます。
施工手順④完了・撤去
所定の深さまで掘削が完了すると、基礎工事や管渠工事など、目的の施工を行います。
工事が終わった後は、埋め戻しを行いながら切梁や腹起しを順に撤去し、最後に横矢板と親杭を取り外していきます。
鋼材は再利用できるため、環境面でもメリットがあります。
このように、親杭横矢板工法は「親杭の建て込み → 掘削と横矢板の挿入 → 補強材の設置 → 目的工事 → 撤去」という流れで進む、シンプルで扱いやすい山留め工法です。
親杭横矢板工法のくさびの役割
親杭横矢板工法で使用される「くさび」について解説します。
横矢板固定に使うくさびとは
親杭横矢板工法で使われる「くさび」は、親杭と横矢板の間に打ち込んで横矢板をしっかり固定するための小さな木片や鋼製の部材です。
横矢板は親杭のフランジに沿って差し込まれますが、そのままではわずかな隙間が生じるため、くさびを打ち込むことで横矢板が動かないように密着させます。
これにより、横矢板が土圧でずれたり落ちたりするのを防ぎ、山留め全体の安定性を確保します。
くさびを使う理由(密着・土圧対策)
くさびを使う最大の理由は、横矢板と親杭の間にできる隙間をなくし、横矢板を確実に固定するためです。
隙間があると、土圧がかかった際に横矢板が動いてしまい、土砂が漏れたり、山留め全体が不安定になったりする可能性があります。
くさびを打ち込むことで横矢板がしっかりと密着し、土圧を均等に受けられる状態が作られます。
また、掘削中に横矢板が沈み込むのを防ぐ効果もあり、安全な施工に欠かせない部材となっています。
【比較表】親杭横矢板工法のメリット・デメリット
親杭横矢板工法のメリット・デメリットはこちらです。
| メリット | デメリット |
| コストが安い(材料・施工費が低い) | 止水性が低い(地下水がある現場に不向き) |
| 施工性が高い(狭小地でも施工可能) | 深掘りに不向き(大きな土圧に弱い) |
| 低振動・低騒音で周辺環境に優しい | 変形量が大きくなりやすい(剛性が低い) |
| 材料選択の自由度が高い | 地盤条件の影響を受けやすい(不均質地盤で変形) |
| 撤去・再利用が容易(鋼材回収が簡単) | 土砂流出のリスク(隙間が生じやすい) |
| 工期が比較的短い | 地下水管理が必要になる場合がある |
親杭横矢板工法の費用
親杭横矢板工法に関する費用についてみていきましょう。
工事費に影響する要因
親杭横矢板工法の費用(単価)は、現場条件によって大きく変動します。
もっとも影響が大きいのは掘削深さで、深くなるほど親杭の長さや横矢板の枚数が増え、切梁や腹起しなどの補強材も必要になるため、工事費が上がります。
また、地盤の硬さも重要で、硬い地盤では親杭の建て込みに時間がかかり、施工機械の規模も大きくなるためコストが増加します。
さらに、地下水位の高さも単価に影響します。
地下水が多い現場では排水設備や薬液注入などの追加対策が必要になり、工事費が跳ね上がることがあります。
その他にも、親杭の種類(H形鋼のサイズ)、横矢板の材質(木矢板か鋼矢板か)、施工スペースの広さ、交通規制の有無など、現場特有の条件が単価に反映されます。
鋼矢板工法とのコスト比較
親杭横矢板工法は、一般的に鋼矢板工法よりも安価です。
理由は、使用する材料が少なく、施工機械も比較的小型で済むためです。
鋼矢板工法は止水性が高く、深掘りにも対応できますが、その分、鋼矢板自体の材料費が高く、打ち込み・引き抜きに大型機械が必要になるため、総工費が高くなりがちです。
一方、親杭横矢板工法は止水性が低く、深い掘削には向きませんが、浅い掘削や地下水位が低い現場では非常にコストパフォーマンスが良い工法です。
したがって、「止水性が不要で、掘削深度が浅い」という条件がそろう現場では、鋼矢板工法よりも親杭横矢板工法のほうが圧倒的に経済的といえます。
親杭横矢板工法と他の土留め工法の違い
親杭横矢板工法とほかの土留め工法の違いを解説していきます。
親杭横矢板工法と鋼矢板工法の違い
親杭横矢板工法と鋼矢板工法の違いはこちらです。
| 項目 | 親杭横矢板工法 | 鋼矢板工法 |
|---|---|---|
| 止水性 | ✕ 低い(隙間がある) | ◎ 高い(継手で止水) |
| 掘削深度の適性 | 浅い掘削向き(〜5m程度) | 深掘りに強い(10m以上も可) |
| 施工性 | 狭小地でも施工しやすい | 大型機械が必要で狭い場所は不利 |
| 振動・騒音 | 小さい(周辺環境に優しい) | 大きい(打撃音・振動が発生) |
| 材料 | 親杭(H鋼)+横矢板(木・鋼) | 鋼矢板(シートパイル) |
| 構造の剛性 | 中程度(補強材で調整) | 高い(矢板自体が強固) |
| 土砂流出リスク | やや高い(隙間が生じやすい) | 低い(継手が密着) |
| 地下水位が高い現場 | 不向き | 向いている |
| 撤去のしやすさ | 比較的容易(鋼材再利用可) | 引抜きに大きな力が必要 |
| コスト | ◎ 安い | △ 高い |
| 主な用途 | 浅い基礎工事、側溝工事、狭小地 | 深掘り、地下水対策が必要な現場 |
親杭横矢板工法と柱列式連続壁工法の違い
| 項目 | 親杭横矢板工法 | 柱列式連続壁工法(ソイルセメント柱列壁) |
|---|---|---|
| 構造 | 親杭(H鋼)+横矢板で構成される枠組み式 | ソイルセメント柱を連続して造成し、壁状に形成 |
| 止水性 | ✕ 低い(隙間がある) | ◎ 高い(連続壁で止水性が高い) |
| 剛性 | 中程度(補強材で調整) | 高い(壁全体で土圧を受ける) |
| 掘削深度の適性 | 浅い掘削向き(〜5m程度) | 中〜深掘りに対応(5〜15m程度) |
| 施工性 | 狭小地でも施工しやすい | 大型機械が必要で施工スペースが必要 |
| 振動・騒音 | 小さい | 小さい(攪拌式のため) |
| 地下水位が高い現場 | 不向き | 向いている |
| 土砂流出リスク | やや高い(隙間が生じやすい) | 低い(連続壁で閉塞性が高い) |
| 撤去のしやすさ | 容易(鋼材を再利用可能) | 困難(地中に残置される) |
| コスト | ◎ 安い | △ 高い(材料・施工費が大きい) |
| 主な用途 | 浅い基礎工事、側溝工事、仮設山留め | 地下水対策、深掘り、恒久構造物の外壁 |
親杭横矢板工法は、施工が比較的容易でコストを抑えやすい土留め工法として広く利用されています。
ただし、土留め工法にはこのほかにも鋼矢板工法や柱列式連続壁工法、地中連続壁工法などさまざまな種類があり、地盤条件や掘削深さによって適切な工法が選定されます。
親杭横矢板工法まとめ
親杭横矢板工法は、親杭と横矢板を組み合わせて土砂の崩壊を防ぐ、シンプルで扱いやすい土留め工法です。
読み方は「おやぐいよこやいたこうほう」。
施工手順は、親杭の建て込みから掘削、横矢板の挿入、必要に応じた切梁の設置という流れで進むのが一般的です。
コストが低く狭小地でも施工しやすい一方、止水性が低く深掘りには不向きという特徴があります。
現場条件に合わせて使い分けることで、安全で効率的な施工が可能になります。
以上です。
ありがとうございました。