掘削工事の現場で、掘削底盤の土が盛り上がるように隆起する現象を「ヒービング」といいます。
ヒービングは主に粘性土地盤で発生し、進行すると底盤の不安定化や施工トラブルの原因となるため注意が必要です。
本記事では、ヒービングとは何かという基本から、土が隆起する原因と発生メカニズム、起きやすい条件、代表的な対策までを、図解を交えてわかりやすく解説します。
施工管理や試験対策の基礎整理にも役立つ内容です。
ヒービングとは?
ヒービングについて解説していきます。
ヒービングの意味や現象
ヒービングについて、土の中でどんなことが起こっているのか図解にしてみました。(上記図解参照)
ヒービングとは、土留め背面の土の重量や土留め壁に近接した地表面荷重などにより、すべり面が生じ、掘削底面の隆起、土留め壁のはらみ、周辺地盤の沈下が生じる現象です。
最終的には土留めの崩壊につながることもあります。
また沖積地盤では、長い時間をかけて粘土質の土が厚く堆積していることが多く、この粘土は水分を多く含み、柔らかくて変形しやすい性質を持っています。
こうした地盤では、掘削や荷重の影響を受けると不安定になりやすく、ヒービングなどの変状が発生しやすくなります。
ヒービングが起きるとなぜ問題?
ヒービングが起きると問題になるのは、掘削現場や周辺構造物の安全性が大きく損なわれるからです。
地盤が持ち上がることで力のバランスが崩れ、土留め壁や周辺地盤に連鎖的な変状が広がり、最悪の場合は土留めの崩壊につながります。
ヒービングが引き起こす主な影響は以下のとおりです。
ポイント
- 掘削底面の隆起
地盤が持ち上がることで、設計した掘削深さや作業スペースが確保できなくなる。施工精度が落ち、工事が進まない。 - 土留め壁のはらみ出し(変形)
隆起によって土圧のバランスが崩れ、土留め壁が外側へ押し出される。壁の変形が進むと、支保工の追加や補強が必要になる。 - 周辺地盤の沈下
掘削内部が持ち上がる一方で、外側の地盤が沈下することがあり、周辺の建物・道路・ライフラインに影響が及ぶ。 - 土留め構造の崩壊リスク
変形が限界を超えると、土留め壁が破損・倒壊し、重大事故につながる可能性がある。
またヒービングが危険といわれる理由は主に3つあります。
ヒービングが危険な理由
- 変状が急激に進むことがある
- 外から見えにくい内部変状が起きる
- 周辺構造物への影響が広範囲に及ぶ
ヒービングは一度すべり面が形成されると、地盤の変形が短時間で進行する場合があります。
また地中で進む現象のため、気づいたときには変形が大きくなっていることが多いです。
さらに掘削現場だけでなく、近接建物や道路の沈下・傾きなど二次被害が発生します。
ヒービングは、単なる「地盤の隆起(持ち上がり)」ではなく、掘削現場の安全性を根本から脅かす重大な地盤トラブルです。
早期の兆候把握と適切な対策が不可欠になります。
ヒービングが発生する主な原因
「ヒービングが発生する原因」は、粘性土の性質+掘削による力の変化が重なって起こります。
掘削によって地盤のバランスが崩れ、粘性土が下から押し上げられることが理由となります。
はてな
① 掘削によって上載荷重が減少する
② 粘性土は「塑性変形」しやすい
③ 土留め壁により側方変形が拘束される
④ 掘削深さが大きいほど起こりやすい
掘削を行うと、地表に載っていた土の重さ(上載荷重)が取り除かれます。
その結果、地盤を押さえつけていた力が弱まり、下から持ち上がろうとする力が相対的に大きくなります。
またヒービングが起こる地盤は、**粘性土(粘土・シルト)**が多いのが特徴です。
粘性土は水を多く含む、変形してもすぐには元に戻らないという性質があるため、**掘削後に土がゆっくり盛り上がる(隆起する)**現象が起こります。
一方、掘削時には土留め壁を設置しますが、横方向の逃げ場がなくなり、応力が下部に集中するという状態になります。
その結果、行き場を失った土が下から上へ押し出されるように変形し、ヒービングが発生します。
さらに掘削が深くなるほど応力解放が大きくなり、土留め壁に作用する土圧が増えるため、底盤付近での隆起が顕著になります。
ヒービングが起きやすい条件・現場
ヒービングが起きやすい条件や現場は以下の通りです。
| 条件・現場 | 内容・理由 |
|---|---|
| 地盤が粘性土 | 粘土・シルトなどは含水比が高く、排水されにくいため、掘削による応力解放で塑性的に隆起しやすい |
| 掘削深さが大きい | 上載荷重の減少が大きくなり、底盤部に作用する押し上げ力が増加する |
| 土留め壁を設置している | 側方変形が拘束され、行き場を失った土が下から上へ押し出されやすくなる |
| 地下水位が高い(※主因ではない) | 有効応力が低下し、粘性土が軟弱化することで底盤の安定性が低下する |
| 軟弱な正規圧密粘土地盤 | 応力変化に耐えにくく、掘削後に塑性変形が進行しやすい |
ヒービングは、粘性土地盤において深く掘削し、土留め壁で囲まれた条件下で特に発生しやすいです。
ヒービングの発生メカニズム
ヒービングのメカニズムは、掘削によって地盤の力のバランスが崩れ、弱い地盤が“押し上げられる”ように変形するプロセスです。
単なる「土が盛り上がる」ではなく、内部で起きる力の流れとすべり面の形成がポイントになります。
| ヒービングのメカニズム(段階) | 起きること | 地盤の状態 |
|---|---|---|
| ① 掘削 | 上載荷重が消える | 地盤が動きやすくなる |
| ② 土圧集中 | 背面土圧・地表面荷重が壁に作用 | 掘削側へ力が流れる |
| ③ すべり面形成 | 粘性土がせん断破壊 | 地盤が塊で動き始める |
| ④ 底面隆起 | 土が掘削底へ押し出される | ヒービング発生 |
| ⑤ 二次被害 | 壁のはらみ・周辺沈下 | 崩壊リスク増大 |
1. 地盤の支持が失われる
掘削を行うと、これまで地盤を押さえていた土の重さ(上載荷重)が取り除かれ、掘削底面の地盤が自由に変形しやすい状態になります。
- 掘削前:周囲の土の重さで地盤が押さえられている
- 掘削後:押さえがなくなり、弱い地盤が動きやすくなる
2. 土圧集中
掘削の外側には、依然として土の重さや重機・盛土などの荷重が残っています。
これらが土留め壁を押し、掘削底面方向へ力が集中します。
3. すべり面形成
沖積粘性土のような柔らかい地盤では、外側からの土圧に耐えきれず、円弧状のすべり面(破壊面)が内部に発生します。
- 粘性土は水分が多く、せん断強度が低いためすべり面ができやすい
- すべり面ができると、地盤は“塊”として動き始める
4. 底面隆起
すべり面に沿って地盤が押し出されると、行き場を失った土が掘削底面側へ盛り上がるように変形します。
- これが「ヒービング(底面隆起)」
- 同時に、土留め壁は外側へ“はらみ出し”変形を起こす
5. 二次被害
内部で土が移動すると、外側の地盤が沈下したり、土留め壁が耐えられず破壊に至ることがあります。
ヒービングの対策方法
ヒービングは、掘削による応力バランスの崩れによって発生するため、対策の基本は 「底盤の安定性を高めること」 にあります。
| ヒービング対策 | 内容 | 効果・目的 |
|---|---|---|
| 段階掘削 | 掘削を数段階に分け、支保工を設置しながら施工する | 応力変化を緩やかにし、底盤の不安定化を防ぐ |
| 地盤改良 | 深層混合処理工法や浅層改良を行う | 地盤のせん断強度を高め、隆起に抵抗する |
| 押さえ工・アンカー | 地盤アンカーや重量構造物で底盤を押さえる | 底盤の浮き上がりを物理的に抑制する |
| 掘削面積の縮小 | 掘削区画を分割し、施工範囲を限定する | 底盤に作用する押し上げ力を低減する |
| 地下水位の管理 | 排水工やウェルポイント工法により地下水位を低下させる | 有効応力を高め、底盤の安定性を向上させる |
一度に深く掘削すると、上載荷重の除去量が大きくなり、底盤が不安定になりヒービングが起きやすくなります。
よって掘削を数段階に分け、支保工を設置しながら掘削することで応力変化を緩やかにし、ヒービングの発生を抑制します。
また掘削底盤の地盤を改良することで、せん断強度を高める方法もあります。
主な例としては、深層混合処理工法、表層処理(改良)が挙げられます。
そして底盤の強度が増すことで、下から押し上げる力に抵抗できるようになるため、底盤にアンカーや押さえ工を設置し、物理的に隆起を抑制する方法も効果的です。
さらに掘削範囲が広いほど、底盤に作用する押し上げ力は大きくなります。
そのため、掘削区画を分ける、一部ずつ施工することで、ヒービングの発生リスクを低減できます。
一方、ヒービングの直接の原因ではありませんが、地下水位が高いと、粘性土の有効応力が低下し、地盤が不安定になります。
そのため排水工やウェルポイント工法などにより地下水位を下げることで、底盤の安定性が向上します。
【比較表】ヒービング・ボイリングとの違い
ヒービングとボイリングの違いについてまとめました。(図解)
| 項目 | ヒービング | ボイリング |
|---|---|---|
| 図解 | ||
| 現象 | 掘削底盤の土が隆起する | 砂と水が噴き出す |
| 主な発生原因 | 掘削による応力解放と粘性土の塑性変形 | 上向きの浸透水圧 |
| 地下水の関与 | 助長要因(主因ではない) | 主因 |
| 発生しやすい土質 | 粘性土(粘土・シルト) | 砂質土 |
| 土の挙動 | 土そのものが押し上げられる | 砂粒子が水とともに流動化 |
| 掘削との関係 | 深い掘削・土留め壁で発生しやすい | 地下水位が高いと発生しやすい |
| 代表的な対策 | 底盤改良・段階掘削・押さえ工 | 地下水位低下・遮水工 |
| 試験でのキーワード | 隆起・塑性変形・粘性土 | 浸透水圧・砂質土・噴出 |
ヒービングとボイリングはいずれも掘削時に発生する不安定現象だが、発生原因・土質・対策は大きく異なるため、正しく区別することが重要です。
ボイリングについてさらに詳しくは以下の記事をご覧ください。
ヒービングに関する試験・実務でのポイント
ヒービングに関する試験・実務の重要ポイントは、「どこで起きやすいか」「なぜ起きるか」「どう防ぐか」を押さえることに集約されます。
理解しやすいように、試験対策と現場実務の両面から整理します。
試験で問われやすいポイント
- 定義の理解 — 掘削底面がすべり面の形成により隆起する現象で、土留めの安定を脅かす。
- 発生条件 — 沖積粘性土などの軟弱地盤、含水比が高い、せん断強度が低い、掘削深度が大きい。
- メカニズム — 背面土圧・地表面荷重 → すべり面形成 → 掘削底の隆起 → 土留め壁のはらみ → 周辺沈下。
- 他の現象との違い
- ボイリング:砂質土での湧き上がり
- パイピング:浸透流による土粒子の流出
→ ヒービングは「粘性土のせん断破壊」がキーワード。
- 安全率の考え方 — すべりに対する安全率(Fs)を用いて安定性を評価する。
- 対策の種類 — 荷重軽減、地盤改良、根入れ深さの確保、排水改善など。
- 掘削時の注意点 — 支保工の設置順序、掘削幅・深さ、施工ステップの管理。
実務で重要なポイント
- 地盤調査の精度が最重要
粘性土の層厚、含水比、非排水せん断強度(cu)を正確に把握する。 - 掘削計画の段階でリスク評価
掘削深度・幅、周辺構造物、地下水位、重機配置を総合的に検討する。 - 背面荷重の管理
重機・資材置き場を土留め壁近くに設けない。盛土を避ける。 - 施工ステップの管理
一度に深く掘りすぎない。段階的に掘削し、支保工を適切に設置する。 - 変状の早期発見
土留め壁のはらみ、掘削底の微小な隆起、周辺地盤の沈下を常に監視する。 - 対策の実行
- 地盤改良(表層改良・深層混合処理)
- 補強土工法
- 根入れ深さの増加
- 排水対策(地下水位低下工)
- 周辺への影響管理
近接建物・道路・ライフラインの変状を計測し、必要に応じて補強・保護を行う。
ヒービングして押さえるべきキーワード
ポイント
- 軟弱粘性土・高含水比・低せん断強度
- すべり面の形成
- 掘削底の隆起(底面破壊)
- 土留め壁のはらみ・周辺沈下
- 背面荷重の管理と地盤改良
以上です。
ありがとうございました。